綾瀬稲荷神社の富士講関係文書概要
▼調査の経過
東京都足立区にある綾瀬稲荷神社の富士講や富士塚について、しばらくその様子をレポートしてきた(富士塚について、または山開きの様子)。この神社の講はいわゆる富士講としては、先達がいない・氏子の組織に変容してしまっているなどその様式を完備するものではないけれど、富士講が行き着く姿の一つとして紹介する意味はあると思う。
さて、この講が所蔵する富士講関係の遺物に拝み箪笥とそれに付属する古文書があり、両方一括で足立区指定文化財として指定を受けている。この度、宮司の唐松秀典氏、または氏子総代会のご好意により古文書の調査をする機会を得た。今回はその概要の報告である。
ただし、今回はあくまで概要の報告であって、翻刻の公表などはこれから私に与えられた課題である。少しずつではあるが翻刻を進めているのでいずれは公表できると思うが、分量があり適した場所が得られるかどうかわからない。このホームページ上で翻刻や影印を公表するには、レイアウトの可能性やホームページの容量などの制約が障害となってくるので、おそらく紙媒体になるのではないかと思う。
調査の経過について記しておく。まず2001年7月1日に行われた山開きの神事後の綾瀬稲荷神社氏子総代会にて、私の自己紹介が行われた後に文書一括での借用が唐松宮司の仲介によって諮られ、了承された。期限は9月15日に行われる大祭までの返却が望ましいという総代会会長大室徳三氏の意見によって、8月31日までとなった。借用書がその場で作成され、文書の一々を列挙・確認しながら手続きを進めた。以後二ヶ月の間、私は文書を大切に自宅に運び、法量の計測・デジカメ、銀塩の両種の写真による撮影(ノート類はコピー)、という作業を進めた。当アーカイブでの発表を意識していたので方法の選択には試行錯誤があり、二ヶ月という時間はなかなかタイトであった。これらの文書はもともと拝み箪笥の中に折りたたまれて保存されていたこともあって、一部の料紙にくせがついてしまっており、また虫食いも見られた。今後の保存を考え、返却時には防虫剤を入れ文書ごとにラベルを貼った封筒を用意して封入することにした。
返却手続きは期限の8月31日、綾瀬稲荷神社にて私、唐松宮司、氏子総代会会長の大室氏(ただしこの場には代理人が出席した)、の三者立会いのもとに行われ、持ち出した全ての文書の返却を現物と借用書との対照によって確認し、滞りなく終了した。以後の文書に間する公表については唐松宮司・代理人氏の了承を得て行うことができるようになった。
▼文書の梗概
基本的に、この文書群は各文書の内容から二つのグループに分けられる。便宜的にA・Bと名づけたい。Aグループは主として彼らが用いていたお伝えであり、Bグループは講の運営や無尽講に関する一群である。
以下にその一覧を掲げる。
綾瀬稲荷神社所蔵富士講関係文書目録(足立区指定文化財)
●Aグループ 主としてお伝えを内容とする折本類。
- 冨士山烏帽子岩直傳 上
近代。折本。木版。表裏ともに表紙破損。虫食い有。18.2*7.6*1.3cm。[62]p. - 冨士山烏帽子岩直傳 下
近代。折本。木版。題箋剥離。虫食い有。比較的状態良好。18.2*7.6*0.6cm。[30]p. - [無題]
年不詳。折本。氏名不詳者による写本。やや厚手の紙。裏表紙剥離。虫食い有。[60]p.うち46p.しか書かれていない。19.7*8.1*1.2cm(厚さは表裏表紙を含む)。 - [無題]
天保十年。折本断簡。仙行による写本。本文前部を欠失し、表表紙と後半部分を残す。背面は別人の手によると見られる祝詞が書き込まれている。15.6*7.9*1.4cm(厚さは表裏表紙を含む)。[60]p. - [無題]
年不詳。折本断簡。氏名不詳者による写本。表紙と最初の一紙以外欠失。紙は雲母引き。神名を列挙するのみ。18*7.8*0.3cm(厚さは表紙を含む)。[5]p. - [光明真言経]
文久四年。折本断簡三紙(内一紙は背表紙と貼合)。木版。無量山の沙門隆善による。清水與三郎印施。四紙分。19.0*7.7*0.2cm(厚さは裏表紙を含む)。料紙四枚のうち3枚は19.0*29.6cm、先頭の1枚は幅23.2cm。
●Bグループ 富士講の運営・無尽に関する名簿・帳簿類。
- 富士講人名
年不詳。状五紙を束ねたもの。12.5*33.0*0.1cm。 - 冨士講芳名帳
昭和十二年七月。状七紙を束ねたもの。33.2*12.0*0.2cm。 - 記
年不詳。33.0*12.0cm。状一枚。 - 包丸渕冨士山石基建寄附連名
明治四十二年七月。状七紙を束ねたもの。32.4*12.0*0.3cm。 - [大学ノート]
昭和中期。23.3*16.1*0.8cm。 - [会計簿]
昭和初期。25.6*18.2*1.0cm。
冨士山烏帽子岩直傳 上 | 冨士山烏帽子岩直傳 下 | [無題](A-3) |
[無題](A-4) | [無題](A-5) | [光明真言経] |
富士講人名 | 冨士講芳名帳 | 記 |
包丸渕冨士山石基建寄附連名 | [大学ノート] | [会計簿] |
終わりに
いつものことであるが、綾瀬稲荷神社の関係者、特に唐松宮司や氏子総代会の方々にはお世話になりっぱなしである。謹んで感謝申し上げたい。今後、この文書の読解によって富士講研究が進めばそれは喜ばしいことである。文書のボリュームは大変であるが、頑張って時間をかけてでも取り組みたいと思う。